私は一級小型船舶免許を持っているため、以前はたまにレンタルのプレジャーボートで海に出る機会がありました。会社の同僚や釣り仲間などに声をかけては釣りやレジャーを楽しんでいたのです。しかしそんな折、下心見え見えで身近な女性陣も誘ったりするのですが、たいていは「船に酔っちゃうから」という理由で断られてしまいます。ましてや家族においては「(船酔いするから)絶対に行かない!」と頑なに拒否されてしまいました。
船酔い、という理由が真意かどうかは測りかねるものの、やはり声をかけた男性陣の一部も同様の返事が多いので、どうやらかなりの高確率で「船酔い」に対する忌避や嫌悪感といったネガティブな印象をお持ちの方が多いということが窺えます。おそらく船だけでなく乗り物酔いに対するトラウマを、少なからず皆さん抱えているのだと思います。
船釣りをはじめた当初、私自身も相当の覚悟をもって釣りに臨みました。船酔いして何度も苦い経験をしたこともあります。しかし場数と経験を重ねることによって、船酔いに打ち勝つことが出来ました。それどころか、いまでは船上で立つのが精一杯の時化の日でも、ピンピンと平気で釣りが出来るようになったのです。
たしかに船酔いの防止には、釣行を重ねて場数をたくさん踏むことがいちばんの予防策だと思います。しかし初心者にとっては無理難題というものです。ここでは船釣りを始める初心者を対象に、最も有効と思われる船酔い防止について自身の経験も踏まえながら解説していきます。
船釣りを楽しむために
船酔いの辛さとは…
かくいう私も、幼少期には乗り物酔いにさんざん悩まされたものです。毎年夏休みに車で出かける家族旅行とか、ある年は東京の晴海から三重県の鳥羽までの船旅だとか、中学生ではじめて友人と船釣りに出かけたものの船酔いでダウンしてしまい丸一日台無しにしてしまったりとか、 乗り物酔いにまつわる苦い過去は枚挙に暇がありません…。
たしかに船酔いに限らず乗り物酔いを経験された方は思い返すだけで気分が悪くなりますよね。辛酸を舐めるというか、とくに船酔いは乗り物酔いのなかでもスーパーヘビー級の辛さといっても過言ではありません。
そんな私が、なぜ船釣りに挑戦したいと思ったのか?さまざまな動機がありましたが、最大の理由は『もっと大物が釣りたい!』という非常にシンプルなものでした。陸っぱりだと釣れる魚も限定されてしまい、限界を感じている時期でもあったのです。
きっと、船に乗って釣りがしたい!という方は大勢いらっしゃるはずです。一方で、船酔いさえなければなあ、という葛藤で船釣りに出かけるのを躊躇っている方もきっと多いのではないでしょうか!?
船釣りVS船酔い
ここでは、初めて船釣りに出かけるにあたって船酔いという「宿敵」に打ち勝ち、釣行すると決断した勇敢な皆さんのために、私自身の経験をもとづき船酔いしないためのコツだとかポイントについて解説していきます。
ただしあえてお断わりしておきますが、絶対に(確実に)船酔いしないという方法やグッズ等は、残念ながらありません。あくまでも、船酔いを最大限予防する方法ですのでご理解ください。
ここに書かれていることを忠実に実行していただければ、高い確率で船酔いせずに済むでしょう。仮に少しだけ船酔いを感じたしたとしても重症化を防げると思います。そして一日船釣りを安心して楽しめると自信をもっておすすめします。
船酔いは誰でもなるもの
まずはじめに、船酔いは誰でもなり得るということを覚えておきましょう。もちろん日頃から海に繰り出している百戦錬磨の漁師や遊漁船の船頭ですら起こり得るものなのです。
事実私は、船頭が激しい船酔いに見舞われている姿を目撃したことがあります。
いまから6年ほど前の話になりますが、御前崎にクエ釣りに行ったときのこと。客は私ひとりだけで、あとは船頭と仲乗りとして船頭の息子が乗船しました。その日は南風がやや強く波高は2メートル位。たしかに釣り辛いですが、竿を出せないほどの状況ではありません。
出船して1時間ほどすると艫の方から「オエーッ!」という地獄の底からの響きのような呻き声が聞こえてきたのです。とっさに振り返ると、なんと船頭の息子が大艫から身をよじりながら何度も嘔吐しています。しかも海面にポチャポチャと落下している音付きで…。汗
「えっ、マジで…?」
正直この目を疑いました。しかしさすがに海の男は違います。彼はペットボトルの水で豪快に口をすすぐと、なんとコマセを準備し竿を出し始めたのです。しかもほどなく、淡々と1.5キロくらいのマダイを釣り上げてしまったのです。
彼はニヤリと笑いながら、遠州弁で私に言いました。
「ごめんよー、さっきは恥ずかしいところを見せて。昨夜は少し飲み過ぎちまったら」
ある意味レアな場面に遭遇したなと思いました。しかしこのように漁師でも船頭でも、普段から日常的に船に乗る人でさえ体調次第で誰でも船酔いするということを知ってもらいたいため、自身の体験談をご紹介しました。
船酔いはあくまでも「予防」が肝心!
乗合船や仕立船など遊漁船はいったん出船して港を離れたら、重病人や事故などが発生しない限り定刻まで二度と港に戻って来ることはありません。
いったん沖に出たら、たとえあなたがどんなに強烈な船酔いに見舞われ、船上で苦痛にもんどり打っていたとしても、船長に「船室で寝ていろや!」と喝を入れられるのがオチです。乗船者同士はひとつのチームであり、管理監督者は船長です。あなた一人のために港に戻るということは決してありません。
初心者にとってはいささか非情に思われるかもしれませんが、これが船のルールなのです。なぜなら、チームの他のメンバー(乗船者)に迷惑を掛けてしまうからです。
いったん船酔いしてしまうと、快適に釣りを楽しめる状態まで復活することは非常に難しいものです。それどころか、せっかく高いお金を払って乗船したのに一日まるまる台無しにしてしまいかねません。さらに(船酔いの)度合いによっては、下船後も後遺症が残ってしまうでしょう。
そうならないためにも、船釣り初心者にとっては船に乗る前から、船酔いしないための予防策を万全にとっておくことが肝心なのです。
船酔い予防5つのポイント
それでは船酔いしないための、事前の予防策を具体的に解説します。ただし個人差によって、船酔いを完全に防止できるものではありませんが、最大限船酔いを予防する対策として有効な方法としてご理解いただけると幸いです。
1.体調は万全な状態で(睡眠不足は禁物)
いちばん大切なことは、釣行前夜は睡眠をたっぷりとりコンディションを万全な状態にすることです。とくに乗合船の場合出船時間は早朝5時や6時と早いため、なかなか十分な睡眠時間を確保することができません。車の場合出発が夜中なんてこともしばしばです。遠距離の場合は船宿や近くの宿泊施設に前泊してしまう方が良いですが、グループ釣行の場合はつい夜遅くまで飲み明かしてしまったり、 悩みの種ですよね。
とはいえ、最低でも4時間以上は睡眠時間を確保しましょう。また釣り物次第では出船してから目的地に向かうまでの間や移動時間などを利用して、こまめに睡眠をとることが大切です。
先の船頭の例のように、睡眠不足は船酔いにとって最大の敵といっても過言ではありません。なるべく釣行前夜には早めに夕食を済ませて早めに寝るように心がけましょう。
2.乗船前までに胃の中を空っぽにしておく
2つめは、乗船前までに胃の中身をなるべく空っぽにしてしまうことです。つまり胃の中に吐くものが何も無い状態にしてしまうこと。これは意外と知られていないですが、船酔いの予防にとっては非常に有効な方法です。
とはいえ、早起きしてすぐにトイレに行ってもなかなか・・・出ないし。なんて不安はつきものです。どうしてもお通じに自信のない場合は、あえて前日夜寝るまえに便秘薬を飲むことをおすすめします。そんな時は、酸化マグネシウム(マグミット)がおすすめです。
また朝食はとらないほうが無難です。お茶やコーヒー・ジュースなど飲料のみに留めておきましょう。船で沖合に出て落ち着いたら、おにぎりやサンドイッチなどの軽食をとりましょう。出船して実釣開始まで、どんなにお腹が空いても我慢しましょう。
とにかく乗船前に胃の中を空っぽにすることです。
3.乗船前に必ず酔い止め薬を飲む
正直言うと、酔い止めを飲むことは「気付け」程度にしか過ぎません。それでも飲んでおいた方が飲まないよりも「船酔いが心配」なんてストレスが軽減するだけで十分です。酔い止めを飲んだら、とりあえず安心!飲むこと自体は保険のようなものだと思ってください。
酔い止めは色々なメーカーから多くの種類が販売されています。個人的にはエスエス製薬のアネロンがおすすめですが、ご自身にとって最も効果があるものを選択するべきだと思います。
ただし酔い止めは酔ってから飲んでも効き目はありません。かならず船に乗る1時間前には飲んでおきましょう。
4.出港までにタックルや仕掛けの準備は済ませる
乗船前の対策は完了しました。ここからは乗船してからの注意事項について説明します。
乗船後着座したら速やかにタックルや仕掛けの準備に取り掛かりましょう。竿とリールのセットおよび道糸をガイドに通してサルカンの装着、そして竿のバット部にクランプを取り付ける作業までは乗船前に済ませておくと乗船後の作業がラクになります。
先ずはロッドキーパーを船べりに固定してスッテロープを結び、竿をロッドキーパーにセットします。バッテリーを使用する場合はリールとバッテリーの電源ケーブルを繋ぎます。つぎに竿を立てた状態で道糸の先に仕掛けを結びます。仕掛けは釣り物によって異なりますが速やかに完了させましょう。
さらにエサやコマセの準備を済ませ、最後に身の回りや足回りを整理して完了です。
以上の作業を出船してから行うと、船酔いする確率が格段に高くなってしまいます。出船する前に余裕をもって出船の時間を迎えられるようにすることが大切です。
5.出船したらなるべく遠くの景色を眺めよう
船が出港して目的地のポイントまでの航行中は、なるべく遠くの景色を眺めるように心がけましょう。時化の場合キャビンや大艫で待機というケースもありますが、その場合は遠慮なく軽い睡眠をとっても構いません。仕掛けやエサが気になっても、船の移動中はとにかく何も作業をしないことが第一です。
また実釣開始後は、ついつい手元や竿先に気を取られがちになりますが、たまにリラックスして遠くの景色を眺めることも大切です。手元ばかり見ていると船酔いするリスクが高まるので注意しましょう。
② 乗船前までになるべく胃の中を空っぽにしておくこと(水分補給はOK)
③ 乗船1時間前にかならず酔い止めを飲んでおこう
④ 出港前までにタックルや仕掛けの準備は済ませておこう
⑤ 出港したらなるべく遠くの景色を眺めよう(軽い睡眠もOK)
酔いそうだなと感じたら
船酔いは、シケやウネリなど波が高い日を除いて、船が出港してから目的地に到着するまでの間になる確率は低いです。大半は実釣開始後30分~1時間になるケースが多いのです。とはいえ船酔いに対する不安はつきものです。が、釣りに夢中になった方が得策です。
万が一釣りをしている最中に少しでも気分が悪いと感じたら早めに、大きく深呼吸してペットボトルの水を飲みましょう。ついつい肩に力が入っていませんか?船酔いは重症化させないことが肝心!何とか一日釣りを楽しめる状態をキープしましょう。
釣りをはじめて1時間以上が経過しても自覚症状がなければほぼ安心です。持参したおにぎりやサンドウィッチなどを食べて釣りを満喫してください。
船酔い予防法(番外編)
乗船前にビールや缶チューハイなどアルコールを飲む(要注意)
さて、荒療治的な方法を一つご紹介しておきます。正直あまりおすすめできない方法ですが、私も含め多くの方が船酔い防止対策として高い効果を実証済です。ただしお酒の飲めない方は絶対に真似しないでください。
乗船前にビールや缶チューハイなどのアルコール類を飲むことによって、平衡感覚を麻痺させてしまうことで、酒に酔うという状態を作り出すことによって自ら船酔いを回避する方法です。
じつはこの方法は絶大な効果があります。もっともアルコールに対する耐性も個人差があるため、お酒を飲む量はご自身の判断によって調整してください。飲み過ぎると釣りに集中出来なくなり、他のお客様への迷惑にもなりかねませんので気をつけましょう。
さいごに
以上5つのポイントを、かならず乗船前に実践していただければ7割以上の確率で船酔いは防止できると思います。かりに船酔いの自覚症状があったとしても、何とか釣りを楽しめて釣行を無事に乗り切ることができるでしょう。
ただし何度もお伝えしている通り完全に予防することは難しいのです。当日の海況に大きく左右されるからです。ベタ凪の日とシケの日では船酔いする確率も大きく変わります。時化の場合漁業関係者でも酔ってしまうことは先に書いた通りです。
本来であれば、海のコンディションが良い日程を選んで出かけたいものですが、なかなかそうは上手くいかないのが自然相手のアクティビティである釣りの難しいところ。
なるべく、あらかじめ天気予報を見た上で予約することはもちろんですが、船頭から近況や情報を入手したり、自分が初心者である旨を事前に伝えておくことも忘れないようにしましょう。船によっては座席を配慮してもらえる場合もあります。
あとは何といっても、
大物とか大漁など、満足いく釣果を上げることが最良の船酔い防止です!
それでは快適なご釣行をお楽しみください!